【異論は認める】トルコ マレーシア インドネシア 私的三国比較

2018-07-22マレーシアビジネス日記


「トルコでクーデターが起こったみたいだけど、次はマレーシアじゃないの?」トルコのクーデターのニュースの後、こんな事を言われました。トルコ=イスラム教の国→事件発生→ISIS関連テロ→次は他のイスラム教国→マレーシア?というイメージなのでしょうか。ムスリムが多く住んでいる地域は世界に広がっていて、さまざまな文化を育んでいます。この多様性が、日本人のムスリム文化理解を難しくしているポイントだと、私は考えています。そこで私の個人的観察から、トルコ、マレーシア、インドネシアの三国を比較してみます。

ページコンテンツ

トルコはイスラム教国?

トルコ共和国は、人口約7800万人、その大多数をイスラム教徒が占めています。その前身は1299年に建国されたオスマン帝国。その広大な版図には、多民族(トルコ人、クルド人、アルメニア人、ギリシア人、ユダヤ人等)が暮し、多宗教(イスラム教、ギリシア正教、アルメニア正教、ユダヤ教等)が信仰されていました。

第一次世界大戦の敗北からオスマン帝国は解体されましたが、その後、独立戦争を経て1923年に共和制を施行。オスマン王家のカリフを追放し、西洋化による近代化を目指す世俗主義(政教分離)のトルコ共和国が建国され、現在に至っています。

トルコ共和国は、政教分離の原則から、公的な場における宗教の影響を排除しています。その反面、人口の99%を占めるイスラム教徒から、社会のイスラム化への要求も強いようです。この世俗主義とイスラム主義のせめぎ合いに少数民族問題が加わり、トルコ社会の不安定要因になっているようです。

イスラム教を連邦の宗教とするマレーシア

マレーシアは、連邦の宗教=イスラム教と定めています。その意味で政治と宗教は、密接な関係を持っています。カンファレンス等の開会式では、成功を祈ってイスラム教のお祈りが行われたりします。

マレーシアは、主にマレー系(約67%)、中華系(約25%)、インド系(約7%)の三民族で構成され、宗教的にはイスラム教(約61%)、仏教(約20%)、キリスト教(約9%)、ヒンズー教(約6%)が主に信仰されています。

ブミプトラ政策を堅持するマレーシア

1963年に独立したマレーシアは、その前進のマラヤ連邦時代から、マレー系と中華系の経済的格差が問題となっていました。その解消の為に、マレー系を様々な場面で優遇するブミプトラ政策が、今でも取られています。大学進学、公務員採用等の様々な場面で、マレー系が優遇されています。しかしながら、現在でも平均所得等の不平等は解決されていません。トルコと同様にこの人種間の課題は、マレーシア社会の不安定要因の一つと言えるでしょう。

トルコとはちょっと違う世俗主義のインドネシア

マレーシアの隣のインドネシアは、人口の約88%をイスラム教徒が占めています。東西5000km、1万を越える島を有し、約300種族が生活する超多民族国家です。当然ですが、さまざまな宗教が信仰されています。このような事情から、インドネシアは「多様性の中の統一(Bhinneka Tunggal Ika)」をスローガンに、国をまとめてきました。

インドネシアには、初代大統領スカルノによって提唱された「パンチャシラ」と呼ばれる建国5原則が基礎に、国造りが進められてきました。

  • 唯一神への信仰 (Ketuhanan Yang Maha Esa)
  • 公正で文化的な人道主義 (Kemanusiaan Yang Adil dan Beradab)
  • インドネシアの統一 (Persatuan Indonesia)
  • 合議制と代議制における英知に導かれた民主主義 (Kerakyatan Yang Dipimpin oleh Hikmat Kebijaksanaan, Dalam Permusyawaratan / Perwakilan)
  • 全インドネシア国民に対する社会的公正 (Keadilan Sosial bagi seluruh Rakyat Indonesia)

無宗教は認められないインドネシア

多くの民族と宗教を包含するインドネシアでは、特定の宗教を国教とした場合に、国民統合が実現できないと考えられていたようです。現在は、イスラム教、カトリック、プロテスタント、ヒンズー教、仏教、儒教が公認されています。興味深いのは、無宗教は認めらないということ。信教の自由が確保されている一方で、宗教が人生に必須と国が定めている点は、ユニークですね。

地域によって異なるムスリム文化

トルコは中東、マレーシアとインドネシアは東南アジアに位置しています。イスラム教の教義は一つですが、信仰されている地域は、世界に広がっています。イスラム教を国教とするマレーシアと世俗主義のトルコとインドネシアでは、社会と宗教の関わり方も異なってきます。このようなことから、最も世俗主義であるトルコとイスラム教を国教とするマレーシアのムスリム社会や文化の間に、私は幾つかの違いを見つけることができます。

この表面的違いが、私たちのムスリム理解を困難にしていると、私は感じています。日本にいると、なかなかムスリムと親しくなる機会はありません。たまたま出会ったムスリムの持っている宗教観、価値観=ムスリム文化と受け取りがちです。実際に私が体験した例ですが、ある日本人レストランのオーナーは、使用していたテーブルクリーナーを、アルコールを含んでいない製品に替えたそうです。そうしないとハラールでは無いと、あるムスリムに言われたそうです。一方それを聞いた別の地域のムスリムは、テーブルクリーナーは清潔を保つ事が目的だし、それ自体を食べるわけではないので、ナンセンスだと言います。

日本はムスリム人口が20万人程度と少なく、日本に生活しているムスリムの多くが世界各地から訪日し、日本各地に点在しています。そのため、様々な地域文化を知ることが難しいことに加えて、同じ地域内の違いを知ることも難しいのです。

「ムスリムインバウンドは難しい。何が許容されるのか、国によって異なる。」

ムスリムインバウンドの現場に居ると、このようなご意見を良く聞きます。しかし、この狭い日本でも各地方によって味覚、習慣、方言があるんです。世界に広く居住しているムスリムにも、多種多様な地域性があって当然なのです。ムスリムと一括りにして考えている私たち日本人が、現実を十分に理解していないと言えるかも知れません。

参考リンク

外務省 トルコ共和国(Republic of Turkey)基礎データ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/turkey/data.html

外務省 マレーシア(Malaysia)基礎データ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/malaysia/data.html#section1

外務省 インドネシア共和国(Republic of Indonesia)基礎データ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/data.html#section1

パンチャシラ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%82%B7%E3%83%A9