日本製キッコーマン醤油ハラール問題から何を学ぶべき

2017-09-03ハラール認証 / ハラール産業

キッコーマン株式会社は、日本国内向けに国際基準のハラール認証を取得した醤油を販売すると、プレスリリースを発表しました。

一方でアラブ首長国連邦政府は、日本製キッコーマン醤油をハラールではないとして、使用を禁止する通達を出しています。

キッコーマン醤油ハラール問題の顛末

今回のUAEでのキッコーマン醤油禁止通達について、詳細な記事を掲載しているHalal Focusをまとめてみると、次のような経緯のようです。

  • アラブ首長国連邦(UAE)のレストランに対して、日本製のキッコーマン醤油にアルコールが含まれているため、破棄するように通達があった。
  • UAE Ministry of Environment and Climate Changeはニュースリリースで、「幾つかの製造日の異なるサンプルから規則違反が見つかった」と発表した。今回の決定は、政府認定されたラボで実施されたテスト結果において違反が確認されたため、施行された。
  • UAEでのアルコール販売は、特定条件のもと認定されている特別ライセンスを持っているホテルやバーのみで、許可されている。
  • 日本製キッコーマン醤油のみが対象で、他国製キッコーマン醤油は対象ではない。
  • 対象となる日本製キッコーマン醤油には、約1.5-2.0%のアルコールが含まれている。
  • ドバイで15年間キッコーマン醤油を使っていたシェフは、日本製キッコーマン醤油にアルコールが入っていることを知らなかった。「日本製キッコーマン醤油にアルコールが含まれていることが、今発見されたことに驚き」
  • ドバイメディアシティにある寿司レストランでは、通達の数時間後には日本製キッコーマン醤油の使用が中止された。

キッコーマン醤油ハラール問題の3つポイント

今回のキッコーマン醤油ハラール問題については、次の3点が重要なポイントであると、私は考えています。

  1. 何らかの経緯で、日本製キッコーマン醤油のアルコール含有が問題になった。
  2. 日本製キッコーマン醤油のみがハラールでないと判定された。
  3. 今回の通達の数時間後には、問題の醤油がレストランから撤去された事例があった。

今回のUAE政府の通達は、製造時期の異なる複数のサンプルを使用した科学的検査結果をもとに、日本製キッコーマン醤油のみを対象として、使用の停止を求めています。

その通達を受けて、数時間後にはレストラン店頭から商品が撤去されています。これは、中東を含めたイスラム諸国では、日本よりも宗教が社会全体と深く関わっていることを、表していると考えられます。この点について、ハラール市場でビジネスを行っている日本企業は、しっかりと再認識し熟考すべきです。

マレーシアにおける非ハラール商品の流通

UAEと同様イスラム教国であるマレーシアのスーパーの店頭では、キッコーマン醤油を普通に入手することができます。私が実際に確認したところ、マレーシアで販売されているキッコーマン醤油は、シンガポール製でハラール認証表示は見当たりません。

こちらのエントリーでも述べましたが、マレーシアでハラールでない商品を流通することは、合法的に可能です。中東でも、ハラールでない商品の流通が一切制限されている国もありますが、ドバイはマレーシアと同様に、一定の規制内で流通が可能です。例えば、マレーシアやドバイのスーパーマーケットでは、明らかにハラールでない商品は、「Non Halal」コーナーで販売されています。

キッコーマン醤油ハラール問題から学ぶべき3つポイント

今回の日本製キッコーマン醤油ハラール問題から、次の3つのポイントについて、学ぶことができます。

  1. ハラール食品製造におけるアルコール使用
  2. 食品のハラールの判断には科学的証拠が必須
  3. ハラールと非ハラール商品の同時製造の課題

ハラール食品製造におけるアルコール使用

現代の大量食品製造過程においてアルコールを使用することは、食品の衛生状態を保つために欠かすことができません。工場内の衛生保持や食品の殺菌等に、利用されています。また、アジア諸国では、多くの発酵食品が古くから食べられています。イスラム教国であるマレーシアも、例外ではありません。日本には、醤油、味噌、みりん、酢、ぬか漬け等の多くの発酵食品があります。

今回ハラールでないとされた醤油は、発酵のプロセスでアルコール成分が発生します。通常の醤油には、1%を超えるアルコール成分が残ることが、知られています。大量生産される醤油の多くには、味の改良と保存を目的として、さらにアルコールを添加している製品も多いのです。

ハラール食品のアルコール使用に対する現実的対応

ハラール食品へのアルコール使用は、生産現場と消費地が離れ工場で大量生産が行われる現代の食品製造においては、現実的に考える必要があります。世界的なハラール認証基準のベンチマークとなっているマレーシアのJAKIMのハラール認証でも、1%までのアルコール含有を認めています。食文化的、商業的視点から考えて、ここまでの含有はやむを得ないとの考えだと思われます。

今回のキッコーマン醤油のように、同一ブランド・商品名でありながら異なる成分の商品を市場ごとに作り分けることは、ビジネス的にも消費者の要求に答えるという視点からも、良くあるケースです。現在のように市場がグローバルに広がった状況では、そのような商品に対しては、消費者が簡単に見分けられるような表示上の工夫をすること等が、求められるでしょう。

食品のハラールの判断には科学的証拠が必須

今回の報道では、製造日と製造国の異なる複数のサンプルのテストによって、日本製キッコーマン醤油がハラールでないと判断されています。この判断の際には、政府に認定されているテストラボが、検査を行っています。このように、グローバルスタンダードのハラール認定においては、信頼性のあるテストラボによる科学的証拠をもって判断されることが、一般的です。

ハラールの判断に科学的証拠が求められる理由

ハラールとは「神によって許されたもの」を意味しています。つまり、ハラールであるかどうかは、宗教的に決めらたものです。商品のハラール性についての判断は、これに加えて科学的証拠も求められるのです。

現在では多くの食品が、加工された状態で店頭に並んでいます。特に加工食品は、今回の日本製キッコーマン醤油のように、海外から輸入されることも少なくありません。複雑化した現在の食品製造過程では、消費者の要求水準が高くなり、原材料の製造国が複数にまたがり、販売先が複数の国であることが、当たり前になっています。それに加えて、日々新たな製品が開発され、世界で販売されています。

このため、世界のムスリム消費者の誰が見ても理解し納得でき、製造現場においても活用できるハラール認証が求められます。それを実現するためには、書類と科学的根拠による客観性が必要なのです。

グローバルなハラール認証の4つの要件

現在イスラム諸国で大量販売されている商品の多くに、ハラール認証が付与されています。しかしながら、その基準は世界統一ではありません。それぞれの国の様々な団体が、地域、文化等の状況に基づいた認証基準を元に、発行しています。このような状況から、グローバルなハラール認証には、次の点が求められると考えています。

  • 基準:宗教的、科学的及び産業的見地から見て、妥当な基準であること。
  • 審査:認証審査が、書類と科学的証拠に基づいて行われること。
  • 監査:認定基準に則った生産やサービスが行われていることを、書類と科学的証拠に基づいて監査されていること。
  • 公開:認証基準、審査、監査等がどのように行われているか、誰にでも判ること。

このような要件を達成していなければ、ムスリム消費者視点から見て、十分に客観的とは言えないでしょう。

日本のハラール認証の現状

日本のハラール産業は、「ハラール認証の発行団体が乱立」といって良い現状です。最近は、ハラールに対する理解も深まり、だいぶ改善したと感じます。しかしながら、残念な事に私の知っている範囲に限っても、ハラール認定基準すら曖昧な認証発行団体が、存在しています。

日本企業が世界のイスラム市場でビジネスを行う場合、信頼できるハラール認証を取得することは、商品ブランディングや企業の信頼性獲得という視点からもメリットがあります。ハラール認証を取得するのであれば、信頼できるハラール認証団体から取得することは、企業としての責任であると私は考えています。

ハラールと非ハラール商品の同時製造の課題

今回のキッコーマン醤油のハラール問題は、日本食ブーム等によって消費拡大していくなかで、ハラールでない日本製とハラールである他国製製品が、混在あるいは誤解されたまま流通してしまった事が原因ではないかと、考えています。なぜなら、UAEでは既に何年も前から、キッコーマン醤油が流通しています。ハラールでない日本製にも、正式に輸入許可が出ていたわけです。最初の輸入許可を出した段階では、税関もアルコールを含有していることを認識していたと思われます。長年の時間が経つ中で、何らかの混乱や誤解等が税関にも市場にも発生したのではないかと、私は推測しています。

ハラール認証取得企業はハラール製品しか製造できないマレーシア

今回キッコーマン醤油ハラール問題は、現状の日本のハラール産業では、常に起こりうる問題です。

  • 一つの会社名で、ハラールとハラールで無い商品を、同じ商品名や工場で製造する。
  • ノンアルコール飲料に「ビール」「ワイン」「酒」等の名称を付ける。
  • ハラールレストランと呼称しながら、アルコールを販売したり豚料理を出す。

市場がこのような状況にある場合、消費者が判断を誤り、ハラールでない商品を消費してしまう可能性があります。これを防ぐためにマレーシアのJAKIMの基準では、上記のような事例を認めていません。ハラールとノンハラールで同じ商品名・ブランド・パッケージは、基本的にあり得ないのです。

長期的影響はブランドイメージの低下

マレーシアやインドネシアのムスリムの友人達を見ていると、食品のハラールについては、非常に保守的です。食品メーカーやレストラン(特に欧米、日本、韓国等の外国発祥)に対して「ハラールに疑いあり」という噂が立ったり、何年も前にハラールかどうかで話題となった記事が、今でもソーシャルで回ってきたりします。疑わしい物は、「食べない利用しない」という方もいらっしゃいます。

今回の件でキッコーマン醤油は、日本産以外はハラールと認められたわけです。また、日本産のハラール認証取得製品が登場したことですから、大きな影響はないと考えています。しかしながら今回のニュース記事が、インターネット上から消えることはありません。適切な検索ワードを入れれば誰でも、瞬時にこのニュースにたどり着くことができます。

このため、一定割合のムスリム消費者から信頼を回復することは、非常に難しいと思われます。大手企業の場合には、商品回収や信頼回復のためのプロモーション等に費用をかけることができます。中小企業で同様問題が発生した場合、そのまま撤退を余儀なくされるケースも考えられます。

がんばれキッコーマン醤油!!

今回のキッコーマン醤油のハラール問題は、日本食品のイスラム市場進出における重要な課題を提示していると、私は考えています。イスラム市場に進出を検討している日本企業は、この事例を十分に検討すべきです。

最後に、日本人として、海外で美味しい醤油が手に入ることは、とても重要です。
がんばれキッコーマン醤油!!