【ご紹介】「そのハラル、大丈夫?マーク発行団体が乱立」
東洋経済ONLINEに、日本のハラール状況をレポートした記事が掲載されました。この記事は、現在の日本観光産業等におけるハラールの状況を的確にレポートしていると感じます。イスラム市場進出やムスリムインバウンドをお考えの皆さんに、ぜひ読んで頂きたい。今回のエントリーでは、この記事をテキストに、現在の日本のハラールの状況について考えてみます。
アルコールが飲める日本のハラールレストラン
[su_quote cite="東洋経済ONLINE" url="http://toyokeizai.net/articles/-/42051″]遠藤晴美さん(仮名)は訪日した取引相手のムスリム(イスラム教徒)になじられた。来日したムスリムが最も困るのが食事と礼拝。遠藤さんは少しでも遠方からの客をもてなしたいと、ハラル認定マークの付いたレストランに案内した。だが隣の席に座った客がいきなりビールを飲み出したのだ。 「こんな店は信用できません」。そのムスリムは何も食することなく席を立った。[/su_quote]
ハラール認証を掲げたレストランでお酒が出る。日本のローカルハラール認証団体には、それでもハラール認証を発行しているところがあるのです。マレーシアや中東では基本的に考えられません。ムスリムの方にもいろいろな方がいらっしゃいます。「日本だから仕方がない」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、この記事の様に厳密に考える方もいらっしゃるのです。
日本でハラールを担保することは非常に困難
[su_quote cite="東洋経済ONLINE" url="http://toyokeizai.net/articles/-/42051″]飲食店の店頭にハラルマークを貼ることは、豚肉、アルコールを置かないのはもちろん、鶏肉や牛肉もイスラム教の戒律に従って処理している、と約束すること。さらに食材がハラルでも、調理方法がハラルでなければ、それはハラルな食事とならない。[/su_quote]
日本の飲食店でハラール認証を取得することは、非常に難しいのです。それは、食材だけでなく、調理方法、食材の保管方法にまで及びます。イスラム教徒が少数の日本では、オーナー、料理人、スタッフ全員の相当の努力がないと実現はできません。また、日本の多くの飲食店は、アルコールを提供することによって利益を上げる構造になっています。日本のレストランでアルコールを提供せずに利益を上げることは、現実的に難しいのです。
供給者都合で解釈される日本のローカルハラル
[su_quote cite="東洋経済ONLINE" url="http://toyokeizai.net/articles/-/42051″]「旅行中ならば、ある程度戒律を逸脱しても、大丈夫だと聞いている。だから厳密なハラルフードでなくてもいいはず」と、決めつける飲食業者もいる。[/su_quote]
「旅行中で仕方がない場合には、ハラールではない食事をすることも許されているのだよ。」 パキスタン出身のムスリムの方からお伺いしたことがあります。しかしこれは、旅行中なら戒律を逸脱しても良いという意味では有りません。ハラールではない食物しか手に入らず、それを食べなければ死んでしまうような状況にあるのであれば、それを食べて生きるべきという意味だと言っていました。
食事を食べるかどうかは、「おもてなし」する日本人が決めるのではなく、ムスリムの方が自らの状況を判断し決めることなのです。上記のコメントは、日本人側の都合を正当化するための言訳でしかありません。もし、上記の様なアドバイスをしている認証団体やコンサルタントがあるとすれば、それは大きな問題です。
確実に実行できるハラールフレンドリーなサービスが必須
[su_quote cite="東洋経済ONLINE" url="http://toyokeizai.net/articles/-/42051″]日本国内では厳格なハラルを担保するのは困難だし、おもてなしの心があるので大丈夫と、独自に提唱する基準を“ローカルハラル”と呼び、認定を与えているのだ。[/su_quote]
日本の商品やサービスで厳密にハラールを担保することは、非常に困難です。それが日本の現実なのであれば、ハラールを名乗る必要は無いと私は考えています。ハラールを名乗るのではなく、私たちで実行可能な「ハラールフレンドリー」なサービスを提供すべきです。
ハラールはムスリムの方の生き方に関わる問題です。日本の供給者が、「ハラールフレンドリー」と明示して提供するのであれば、それは確実に実行されなければなりません。そのためには、現在の日本の環境で日本人が実行可能な現実的な方法で担保されなければなりません。
ハラールかどうかを決めるのはムスリム自身
「日本食の美味しさは、必ず世界の方々にわかって頂けるはず」
最近の海外進出関連の報道等でよく聞く言葉です。しかし、「日本食が美味しい」と決めるのは、提供側では有りません。それを食べるお客様です。
[su_quote cite="東洋経済ONLINE" url="http://toyokeizai.net/articles/-/42051″]これくらいいいだろうと提供者が判断するものではない。食べる人の判断に任せるべき[/su_quote]
同様に、あなたの商品やサービスをハラールであると考えて利用すると決めるのは、あなたや日本の認証団体ではありません。それを利用するムスリムの方々です。
私たちがすべき事は、ムスリムの方々がハラールであると判断できるようにする事です。そしてその方法は、かれらの視点から見て、有効な方法である必要があります。ハラール認証やハラールフレンドリー認証等は、その一手段でしかないと考えるべきでしょう。
ムスリムが自ら選ぶ為の情報提供が重要
私は知り合ったムスリムの方々に、イスラムに関する様々な質問をしてきました。豚、アルコール、結婚、家族、モスクなど、今でも疑問に思うと、率直に聞いています。その中で、イスラムの信仰は非常に個人的な信仰であること、基本的にはアッラーと個人の間の信仰だと感じます。イスラムの信仰と私たちの信仰は、大きく異なっているようです。
私たちの目標は、ハラール認証を取ることではありません。ムスリムの方が安心して利用できる商品やサービスを提供し、日本製品や日本旅行で満足して頂いて、商売を行うことです。そのためには、ムスリムの方それぞれが、ハラールかどうかを判断できる事が重要です。私たちが行わなければならないことは、かれらが安心してハラールであると判断できる情報を、誠実かつ積極的に提供してくことだと思います。
—
先日、あるシェフの方とお話しをさせて頂きました。そのシェフの方は、ムスリムの方に喜んで頂くことを真剣に考え、日本の料理人の面子にかけて美味しいハラール対応の料理を提供したい、と真剣におっしゃっていました。
日本の飲食店においてハラールをどう担保するかに話が及んだ時に、「ハラール認証を取ることが、私たちからすれば最も簡単な方法だ」とおっしゃっていました。日本側から見れば、そうなのでしょう。しかしムスリム側から見れば、現時点では十分ではない状況です。
商品やサービスの供給者側である私たちは、両者の認識に差異があることを十分に理解する必要があります。