【2017年 人口比0.24%】日本に”ハラール”ブームは来るのか?
2020年の東京オリンピックを控え、日本やマレーシア事業家から「日本で”ハラール”がブームになると聞いているが本当か?」とお問い合わせを頂くことが増えてきました。
日本のハラール市場を考える場合、統計資料を使い冷静に検討することが必須です。このエントリーでは、統計資料を中心に私の現場経験を加味し、市場を考える上で最も重要なムスリム人口について検討します。
日本のムスリム人口は15から30万人?
日本のムスリム人口を調べるために、政府の統計データをいろいろと検索しました。残念ながら宗教別の人口動態の統計データを、見つけることはできませんでした。ハラール産業関係と話をしていると、だいたい20万から40万人位ではないかとの意見を良く耳にします。
日本では、生まれながらにしてムスリムの数はまだ多くないです。そこで在留外国人のデータを使い、ムスリム比率の高い国からの在留者数を調べました。その数は、約12万人程でした。
米国や欧州からの在留者にも、ムスリムが含まれていると考えられます。インドや中国は、ムスリム比率は低いですが、人口数からみれば世界有数のムスリム国です。日本人改宗者は、この統計には現れません。このような人々が、この統計から漏れています。
これらのことから、日本のムスリム人口は15から30万程度であると推定します。
日本のムスリム人口は総人口の0.24%
ここまでの推計から、総人口におけるムスリム人口比を推定します。ここでは、最大値に近いと考えられる30万人と想定しました。その結果、ムスリム人口は総人口の0.24%程度と推定されます。
日本の総人口 | 推定ムスリム人口 | 割合 |
126,695,000 | 300,000 | 0.24% |
人口約30万人というと、東京都の中野区や豊島区、那覇市、盛岡市、久留米市位の人口規模です。
日本にあるモスクは80ヵ所
インターネット上の情報を総合すると、日本には80程度のモスクがあるようです。所在地は全国32都道府県にわたっていますが、その多くは、関東、東海、都市部にあります。
これらのことから、約30万人と推定される日本に暮らすムスリムは、一つの都市や地域に集住しているのではなく、全国にある程度分散して生活していると推定されます。
訪日ムスリム旅行者数は50-60万人?
次に、日本を訪れるムスリム旅行者数を推定しましょう。こちらも統計を探しましたが、宗教別の統計はないようです。日本政府観光局のデータでは、マレーシアとインドネシア以外のイスラム諸国は「その他」に分類されています。ここでは、マレーシアとインドネシアからの訪日旅行客数をもとに、推定を行います。
マレーシアとインドネシアは、多民族・多宗教国家です。統計データの旅行者数を、そのままムスリム旅行者数と推定はできません。それぞれの国のムスリム人口比は、2010年の統計データから確認できます。このエントリーでは、両国の旅行者数にムスリム人口比を乗じて訪日ムスリム旅行者数を推定します。
国 | 2017年訪日者数 | 2010年人口比 | 推定ムスリム旅行者数 | |
マレーシア | 439,548 | 61.3% | 約269,000 | 合計 |
インドネシア | 352,330 | 81.18% | 約286,000 | 約555,000 |
マレーシアとインドネシアで訪日インバウンドに携わった経験から、訪日旅行者の民族別比率は、中華系が高めだと肌で感じます。ハラールが担保されない日本旅行は、価格の高さと相まってまだ参加者が多くないようです。
この推計と私の経験知から考えて、訪日ムスリム旅行者数は50-60万人程度と推定します。
訪日ムスリム旅行者の割合は総旅行者の2%
次に、訪日ムスリム旅行者数の総訪日旅行者数に対する割合を推定します。今回のエントリーでは、50万人を想定します。その結果、約2%と推定されました。
訪日総旅行者数 | 推定ムスリム旅行者数 | 割合 |
28,691,073 | 500,000 | 2% |
この数値からも判るように、ムスリム旅行者の割合はまだ多くありません。増加率では、2017年度は前年比19%程増加しています。この増加はここ数年の傾向であり、大きな経済的な変化などがなければ、オリンピックまでは続くと考えられます。
ムスリム旅行者はどこにいる
マレーシアからの旅行者は、到着時にVISAが取得できます。基本的に英語が話せるため、団体旅行から個人旅行へとシフトしつつあるようです。若者のバックパッカーも増えているようです。しかしながら、まだリピーター旅行者数は、それほど多くないようです。インドネシアの旅行者の場合には、出発前にVISA取得が必要な事と言葉の問題から、グループツアーがまだ主流のようです。
このような状況から考えて、ムスリム旅行者の多くは、有名な観光地や大都市を中心とする従来型の”海外旅行”を楽しんでいると想定されます。既にリピーターの多い中国、台湾、香港や、個人旅行を基本としている欧米系の旅行者とは、異なった旅のスタイルをとっていると考えられます。
日本に”ハラール”ブームは来るのか?
- 推定ムスリム人口:最大30万人。総人口比:0.24%。
- 全国の多くの地域に住んでいる。
- 推定ムスリム旅行者数:約50万人。総旅行者数比:2%。
- ムスリム旅行者数増加率:前年比約20%。継続する可能性が高い。
日本のムスリム人口とムスリム旅行者(=ムスリム消費者)数の傾向を纏めると、上記のようになります。日本のハラール市場における消費者数は、当面増加傾向にあると言えるでしょう。その点から考えると、日本のハラール市場は上昇傾向(ブーム)にあると言えるのかもしれません。
一方で市場全体から考えると、ムスリム消費者数は決して多くありません。地方の中堅都市と同人口が、全国に住んでいます。ムスリム旅行者も、都市部や有名観光地に偏在していると考えられます。
”ハラール”ブームが訪れるかどうかはビジネスモデルしだい
「ハラール」とは、神に許されたものを意味しています。個々人のムスリムにとって「ハラール」商品やサービスを消費することは、非常に重要な事なのです。一方でビジネス視点から見てみると、日本のハラール市場は決して大きな市場とは言えません。
これらの点から考えると”ハラール”がブームとなるかどうかは、ビジネスモデルによると考えられます。都市部や観光地に立地する小規模ビジネスは、チャンスがありそうです。ムスリム消費者へのアプローチが、比較的行いやすいと考えられます。一方で大量販売や流通が必須な大規模ビジネスは、必要十分な数の消費者へのアプローチが課題となると考えられます。
参考
日本の観光統計データ
統計で見る日本
Demographics of Indonesia
Demographics of Malaysia